これはなに
お久しぶりです。明けましておめでとうございます。
早速本題ですが、先日バイト先の送別会に誘われました。
進んで行くほど仲の良い人はいなかった1のですが、断るほどの勇気もなかったため行くことになってしまいました。
いつも通り付和雷同な人生を送っている次第です。
今回はコミュニケーションに難を抱える僕がさまざまなアプローチで送別会、もとい関係希薄な人間とのコミュニケーションの場に挑んでいくさまをご覧いただこうと思います。
前編としては対人関係に役立つ知識のインプットを、後編としてはその実践例(送別会レポート)をお届けする予定です。
今回はその前編で、覚えた知識のアウトプットとして記事を書いていきます。
今までの記事が信じられないぐらいに文字ばかりのお勉強テーマなので飽きたらすっ飛ばしてください。
このブログがパンピとのコミュニケーション不安を抱える津々浦々のオタク2の一助となれば幸いです(ならないと思います)。
今回のモチベーションと目標
簡潔に今回のモチベーションを述べます。
シンプルにお喋りを楽しみたい!!!!!
そしてあわよくば脱オタクして「正常」というレールに乗っかりたい……
ざっとこんなところですね。
小目標として来る送別会で満足なコミュニケーションを取ること、大目標として今後の人生における人との関わりを十全にこなすことを掲げておきましょう。
送別会の実態はただの飲み会(実際そう言われた)なのですが、社会的経験値(≒友達)が少ないのでそのただの飲み会とやらでの振る舞い方がわかりません。
寂しい人生だったな。
簡単に状況を説明します。
飲み会の規模としては僕含めて13人、紛うことなき人生最大の飲み会です。
僕以外のみなさんは煌びやかな大学生活を送ってそうな感じです、偏見ですが。
女性の方もいらっしゃるのでポリコレ棒で口に戸を立てなければなりません。
送別対象のみなさんは誰ともまともに会話した記憶がありません。3
というかそもそも他の面子もまともに喋ったことがありません。
Q. なぜ誘われた?
A. たぶん義理。
やってしまった〜〜〜〜〜〜〜〜
義理を義理と理解するのが遅かった〜〜〜〜〜〜〜〜
「こいつ義理で誘ったら本当に来ちゃったよ……」とか思われてるなこれ……………………
一応断れなかった理由を述べておくと、送別会に先立ってバイト先の研修会があってそちらには参加表明をしてしまっていたため流れに抗えなかった、という話はあります。
まあ後悔は先に立たないので前向きに事を捉えましょう。
これはコミュニケーション能力を試す場である、と考えて最低限「義理でこいつ誘ったけど思ったより面白かったな」と思ってもらえるように頑張ります。
面白トークがバンバン出るほど最後までコンテンツ力たっぷりの人間じゃないので所謂「雑談」というやつで乗り切る他ないのですが、この「雑談」がとてつもなく苦手で困っています。
兎にも角にも気乗りしない飲み会ですが、コミュニケーションの何たるかを学ぶきっかけだと思って万全の準備で臨むことにしました。
僕以外の誰もがここまで真摯に飲み会に向き合っていないでしょうが、僕にとっては由々しき問題なのです。
めんどくさい?これが社交不安ですよ。
グライスの会話の公理(Maxims of Conversation)
もういきなり見当違いな話題から入っていきます。
言語学に、発話(utterance)の意味を扱う語用論(pragmatics)という分野があります。
これから発話というタームを多用しますが、普段のお喋りだと思ってもらって大丈夫です。
にわか言語オタクとしてはコミュニケーション能力の改善には語用論を学ぶべきだと思ったわけですね。
コミュニケーションって発話の連続ですからね。
見出しにある「会話の公理」は語用論のタームなのですが、ざっくりと言えば会話を円滑に運ぶための基本的なルールです。
コレコレ!求めていたものですよ!!
以下に独自解釈した内容を示します。
- 量の公理
- 質の公理
- 関連性の公理
- 様態の公理
オタクがやりがちな発話がことごとく禁止されていますね!
一見当たり前ですが、言語化してくれると何に気をつけて発話したらいいか分かりやすくなって嬉しいですね。
分かりやすくなったものの、いざ実践するとなると様態の公理はなかなか難しいです。
リアルタイムで分かりやすい文を作ることが求められているわけです。
しかも、音声という不可逆的な媒体で。
そうなると「分かりやすい文」について考える必要が出てきますね。
これに関しては特に学術的アプローチとかないんですが、備忘録として個人的に意識していることをまとめておきます。
- 一文を短くする
- 主語と述語を近づける
- 能動態で述べられることは能動態で述べる
- 副詞は動詞のすぐそばに置く
- 名詞句を短くする(助詞を多用しない)
- 結論から述べる(あんまりできてない)
手軽に取り組めそうなのは最初の『一文を短くする』ですね。
発話になるとどうしても「〜なんですが……(終)」みたいな非文を生成してしまうので気を付けたいです。
ちなみに、例外的に会話の公理が守られないような会話も存在します。
大体相手に(直接的には)伝えたくない事柄があるような場合(あるいはマジで会話がヘタクソか)です。
意図を汲む、という点で会話の公理に則っているか否かを意識するのは大事そうですね。
この調子でどんどん語用論の見識を深めていきましょう!
ブラウンとレビンソンのポライトネス理論(Politeness Theory)
お次のインプットは「相手との距離感、いい感じにしたいよね」って話です。
読んでるサイトによれば、『人間関係を円滑にするための言語ストラテジー』とのことで本課題にピッタリです。
具体的にどうするのかというと、「ポジティブ・フェイス」と「ネガティブ・フェイス」の二面を脅かさないように振る舞います。
ポジティブ・フェイスは大まかに言えば承認欲求、ネガティブ・フェイスは相手と一定の距離を保ちたいという欲求のことです。
ポジティブ・フェイスは"相手に近づく欲求"、ネガティブ・フェイスは"相手から離れる欲求"とも取れます。
コミュニケーションの目標は、双方のフェイスを維持することにあります(あるそうです)。
しかしながら、自慢話とか踏み込みすぎた話とかによって、時として一方のフェイスが脅かされるときもあります。
フェイスを侵害するような行為をFTA(Face Threatening Act)と呼び、コミュニケーションではFTAの度合いを見計らっていい感じに意思疎通しよう、というのがポライトネス理論から得られる学びです(独自解釈)。
いい感じに意思疎通、というのも嬉しいことにランク付けされています。
以下、上から順に「いい感じ」の意思疎通です。
- FTAにあたる行為を行わない
- 仄めかす(なんだこの曖昧な表現は)4
- ネガティブ・ポライトネス
- ポジティブ・ポライトネス
- あからさまに言う
上から順に、次の飲み会を提案する例5を挙げるならば、
- 「……(何も言わない)」
- 「ここの料理結構美味しいですね〜(飲み会を楽しんでいることを仄めかす)6」
- 「気が向いたら(相手の自己決定権を担保している)また飲み行きましょう〜」
- 「またこのメンツで(相手を同じ集団の一員として扱うことで承認を行っている)飲み行きたいですね〜」
- 「次の飲みいつにします?(相手のフェイスを考慮していない)」
とかですかね……7
要するに相手の気持ちを考えて行動しようというわけで、その"相手の気持ち"って"接近(approach-based)"と"忌避(avoidance-based)"の2つがあるよね、という理論でした。
当然のことながら賛否両論ある理論なので絶対ではないですが、コミュニケーションにおける"気持ち"を接近と忌避の二元論に簡略化できそうなのは便利だと思いました。
順番交替(Turn-taking)
語用論とはちょっと別ジャンルの会話分析という分野で大事な概念です。
会話分析、まさしく求めているものがありそうな名前してますね。
順番交替とは、話す/聞くのスイッチングです。
会話、と言われて思い浮かべるのは双方向的な発話の場面でしょう。
"双"方向というだけあって、会話の参与者は聞き手と話し手の役割を交互に交替していくことになります。
なんで順番交替が重要かというと、会話の秩序に関わるからです。
授業みたいに一方的に話し続けることは一般には会話と呼びませんし、相手の話を遮って発話を始めるのもあまり良い会話(秩序立った会話)とは言えません。
順番交替が言いたいのは、「正しいポイントで発話の順番を獲得しよう」ということです。
一体、正しいポイントとは何なのか、というのが"移行適切場(Transition Relevance Place; TRP)"です。
参考になりそうな文献を読んでみましたが、語弊を恐れずに言えば話の区切りですかね。
先程、
発話になるとどうしても「〜なんですが……(終)」みたいな非文を生成してしまう
と述べましたが、統語的に(≒文法的に)完了していない場合でも、イントネーションが下がれば話の区切り(TRP)として扱われるそうです。
実際の会話を振り返ると、
「ニンニク入れますか?(統語的完了・イントネーションの完了・質問行為の完了)」
「ヤサイアブラマシマシで(統語的には未完了だがイントネーション・応答行為としては完了している)」
みたいな例がありますね。8
この例でも分かる通り、TRPで順番交替が起こり得ます。
必ず交替する訳ではない、というのがミソですね。
会話分析ではTRPのたびに以下の手続きが行われるとしています。
- 発話中に初めてTRPに至った場合
- それまでに現在の話者が次の話者を決定していたら、指定された人が次の話者になる権利と義務を持ち、そこで順番交替が起こる
- 現在の話者が次の話者を指定しておらず、他の者が次の話者として自己を指定すれば、その者は次の話者となる権利を得て、そこで順番交替が起こる
- 現在の話者が次の話者を指定しておらず、他の誰も次の話者として自己を指定しなければ、現在の話者が話し続けてもよい(順番交替は起こらない)
- 1-cが適用された場合、次のTRPで再び1-[a-c]のいずれかを適用し、順番交替が起こるまでこれを続ける
ボドゲの説明書か?
ちょっと噛み砕いて言うと、(1)話の区切りがついたら、(1-a)話の流れ的に喋るべき人が喋るべきで、(1-b)特に流れがなければ喋りたい人が喋ればよくて、(1-c)誰も喋らなければ喋り続けてよくて、(2)喋り続けたら次の話の区切りでまた(1)の判定が起こる、といった感じです。
我々コミュニケーション不安部としては何を学ぶべきかというと、健全な順番交替を行うために「TRPを明確化しよう」、そして「1-cが適用される前に1-bを適用しよう」ということではないでしょうか。
不明瞭なTRPでは、他の会話参与者がいつ順番交替を行えばよいか分からなくなってしまいます。
対策としてはやはり統語的・イントネーション的・行為的完了を意識することですね、特に統語的完了は一番伝わりやすいです。9
やはり非文はよくない……
「1-cが適用される前に1-bを適用しよう」は言い換えれば、言いたいことはさっさと言おうということです。
1-cが示しているのは、こちらが何も言わなくても会話が継続し得るということです。
発話に対する反応を考えていたら別の話題に切り替わってしまい言いたかったことが言えなくなったこと、ありませんか?
僕は何度もあります。
そういうのを防ぐために迅速に反応できるようにしておきたいですね。10
相手の話をバンバン切ろう、と言いたい訳ではないので誤解なきよう。
会話はターン制だという自覚をきちんと持ってコミュニケーションしていきましょう。
発話順番の割当(Turn allocation techniques)
会話はよくキャッチボールに例えられますが、どうやってボールを投げたらよいでしょうか?11
順番交替では"どのような場合に順番交替が起こり得るか"を見ましたが、"次の発話者をどう決めるか"はあまり触れられていませんでした。
ボールの投げ方、つまり次の発話者の決め方を考えるのが発話順番の割当です。
発話順番の割当には以下の2パターンがあります。
- 次の発話者を現在の発話者が指定する場合
- 会話の参与者が自分から話し始める場合
それぞれ他者選択と自己選択と呼びます。
どちらの場合も必要な手続きがあるのでそれをまとめておきます。
まず他者選択の場合です。
順番交替の法則だと1-aに相当します。
他者選択では、以下の2つの手続きが両方とも必要です。
- 隣接ペア(後述)の第一成分を産出する
- 発話順番を次の発話者として選択する参与者に宛てる
1つ目ですが、要するに投げかけですね。
「そうですよね」みたいな応答・同意にあたるような発話は次の発話者を指定しません。
隣接ペアの第二成分だから〜って説明が一番良い気がしますが、それは次のところで説明しようと思います。
会話を続けるには相手の反応を求めるような発話をしようというわけです。
2つ目は話者を指定したい場合は(ある程度はっきり)指定すべきということです。
「誰かイスラエルのEDM聴いてる人いませんか?」と聞いても、"誰か"では次の発話者が不特定で(自己選択が起こらない限りは)会話が続きません。
なので、きちんと「○○さんって、イスラエルのEDM興味ありませんか?」と聞くようにしましょう。12
補足しておくと、"(ある程度はっきり)指定"というのは、発話の中で相手の名前を言うとか次の発話者の目を見て喋るとか手振りで相手を指す13とか明示的なものに限りません。
先程の文献によると、非明示的な選択の例としては、
を利用して発話を宛てることが挙げられていました。
連鎖上の位置って言われると難しいですが、「さっきこの人が喋ったから次は自分だな」みたいな前提のことです。
発話内容と参与者のアイデンティティについては、例えば「うちの大学って前期いつからでしたっけ?」と聞かれたときに、参与者は"発話者の大学(発話内容)"と"自分の大学(参与者のアイデンティティ)"を比較して発話が自分に宛てられているか理解する、みたいな流れのことです。
非明示的な選択を使いこなせるようになれば相手の名前を呼んだり目を見て話したりしなくて済む……ってコト!?
以上が他者選択の手続きでした。
次に自己選択の手続きです。
自己選択の手続きは特段難しいこともなく、喋りたかったら喋るというのが原則です。
これは順番交替の法則1-bにあたる部分ですね。
難しいことはないのですが、喋り続けたい場合(1-c)に自己選択(1-b)される(割って入られる)と困ります。
話の前提になるような部分をあとから喋るつもりが相手に先を越された、みたいなことはよくありますね。
そのような事態を防ぐため、会話では時折"駆け抜け(Rush-through)"という手続きが見られます。
"駆け抜け"とはTRPの前後で発話スピードを上げることです。
駆け抜けのない例とある例を見てみましょう。
「休みの日はだいたい奈良健康ランド行ってるんだけど……(イントネーションの完了; TRP)」
「奈良!?時間かかるでしょ」
会話としてはまあ成立してそうですが、僕はサウナの話に持っていきたかったので移動の話はちょっと邪魔です。
そこで、駆け抜けを使ってみましょう。
「休みの日は奈良健康ランド行ってるんだけど(ここから発話スピードup)、あ、サウナ入りにね」
「へぇ〜サウナかぁ、サウナ好きなの?」
よし、上手に話せたな!14
このように駆け抜けを使うことで話題をコントロールできそうだ、というのがここでの知見でした。
隣接ペア(Adjacency Pair)
こちらも先の順番交替と並んで会話分析において最重要とされる事項です。
隣接ペアは隣り合った発話のペアを定型化したものです。
挨拶をしたら挨拶が返ってきますし、質問をしたらその答えが返ってきますよね。
この"挨拶-挨拶"とか"質問-返答"みたいなペアのことを隣接ペアと呼んでいます。
ペアと呼ぶだけあって、"挨拶"と"返答"は対応しませんし、"返答"の後に"質問"が来ることもありません。
順序対ですね。
隣接ペアで重要なのは、隣接ペアの第一成分には規範や期待が伴っているということです。
挨拶という第一成分には挨拶を返さなければならないという規範が、質問という第一成分には相手は返答してくれるはずだという期待が含まれています。
これを上手く汲み取ってやることで円滑なコミュニケーションが取れるのでは!?
先述の他者選択で挙がった『隣接ペアの第一成分を産出する』というのは、第一成分の規範性に基づいています。
隣接ペアの第一成分を産出することで「この第一成分には対応する第二成分があるよな?」と相手を誘導する訳です。
『質問を質問で返すなあーっ‼︎』ってやつです。15
色々な隣接ペアを見てみましょう。
- 出会いの挨拶-出会いの挨拶
- 呼び出し-応答
- 質問-返答
- 申し出-受け入れ/断り
- 要請-受け入れ/断り
- 提案-同意/不同意
- 評価-同意/不同意
- 苦情-謝罪/言い訳
- 別れの挨拶-別れの挨拶
などがあります。
読んでる文献では、"質問-返答"ペアはやや注意と指摘されていました。
どう要注意なのかというと、疑問文の形をしていても必ずしも"質問-返答"ペアの第一成分とは限らないという点です。
以下はその例です。
「今何時?」
「ごめんスマホの電池切れちゃって……」
一見すると「今何時?」は質問に見えますが、実体としては「現在時刻を教えて欲しい」という要請でした。
そしてこの会話は、"質問-返答"ではなく"要請"に対して"断り"を入れていると解釈するのが妥当でしょう。
さっきの文献では以下のように述べられていました。
「相手から質問されればこちらは返答しなければならない」というのは経験的に事実だが、それで当該のやり取りが終わるのではなく、 「なぜその質問がなされたのか」の疑問が解決されてはじめて完結をみる
質問をしたら『なぜ・それを・今・私に?(why that now and to me?)』が解決するように会話を広げよう、という学びが得られました。
質問は話題提供として便利ですが、注意すべき点もあるということですね。
まとめ
得られた学びをまとめます!
- 過不足なく話そう
- 嘘だと思うことは言わないようにしよう
- 脈絡のあることを話そう
- 分かりやすく述べよう
- 相手が接近したいか忌避したいかをわきまえよう
- 話の切れ目は分かりやすくしよう
- 会話に参加したかったらなるはやで参加しよう
- 会話を続けたかったら相手の反応を求める発話をしよう
- 会話を続けたかったら次の発話者を選択しよう
- 様態の公理を守り損ねた場合は駆け抜けよう
- 隣接ペアの第一成分に対応した発話をしよう
- 質問をしたら『なぜ・それを・今・私に?』が明らかになるように話を広げよう
これらのことを意識して、楽しくコミュニケーションが取れるよう頑張ります!16
驚くほど文字だらけの記事になってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。
参考文献