これはなに
すじこからイクラを精製した報告です。
去年のNFのちょっと前の話です。
時系列的には「イクラ食べたい編」→「道後旅行編」→「イクラ探し編」→「イクラ精製編」→「失??話」です。
お料理ブログというよりは僕が筋子を手に入れるまでのオタクアドベンチャー随筆みたいな感じです。
イクラとは萌芽、そして世界
鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。 卵は世界だ。 生まれようと欲するものは、 一つの世界を破壊しなければならない。 - ヘルマン・ヘッセ『デミアン』
卵は内側の世界を守ろうとする。
卵は内側の世界に閉じ込めようとする。
しかし、やがて爆発的な力がその世界を破壊し尽くす。
萌芽の瞬間を迎える。
卵は外向きの衝動を孕んでいる。
そうして生まれ出た瞬間には、外側の世界はたちまち取り込まれる。
内側の世界は再構築される。
僕が欲しいのは外向きの力だ。
は?
イクラをたくさん食べたい衝動が爆発的に発生しました。
痛風にはなりたくない。痛風で死んで後悔するまでいくら食べ続けたい
— K 藤 (@K_fUj1) 2018年9月26日
経緯は特になく、喉が渇いたぐらいのノリでイクラを食べたくなっています。
なぜイクラだったのかはわかりません。
喉が渇いたときに自販機で飲み物を買うように、僕はこの衝動の解決を自身の経済力に頼ることにしました。
自販機にイクラは売ってねえよ
結果的にイクラの購入を断念する話です。
近くのスーパーを3軒ぐらい巡ってみたところ、平均して、というかどこもかしこも¥1,500/100gというお値段でした。
ムリ。
不当かどうかはさておいて、高いことは高いですよね(同調圧力)。いくら、不当に高いイメージしかない
— K 藤 (@K_fUj1) 2018年9月26日
経済力に頼るとかなんとか言いましたが、この価格はさすがに尻込みしてしまいます。
食べたいものを食べたいときに食べる、という人生哲学を真っ向から否定しにくる価格設定です。
あと、100gでこの衝動を抑えられるとも思えません。
魚肉に比べて魚卵はコスパが悪すぎるんですよね、犠牲になっている命も多い1し。
そんなこんなでイクラの購入を断念します。
サーモンベイビーはイクラ
イクラの購買意欲が消えたところで、イクラへの食欲は消えていません。
一般に購買意欲がキャンセルされるとその原因となっている欲求もキャンセルされがち2なんですけどね。
ここで事態の争点はいかに安上がりにイクラを用意するかになりました。
資本主義的な思考体系に組み込まれているのは一体どちらなんだ。
卵の世界は、それを取り巻く世界に支配されています。
100gのイクラは、製造コスト、流通コスト、仲介業者の法外な価格設定、鮭になれなかったイクラの怨恨、と様々な思惑が筋交って¥1,500という価値に落とし込められています。
そう、様々な思惑が筋交って……
筋交って……
筋子。
ふふっ。
ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!3
というわけで、筋子からイクラを精製して¥1,500のうちの製造コストを減らそうと思います。
一消費者にできるのは高々その程度なので。
というわけで、ここまでが9/27の出来事です。
そうして、この2日後に道後に旅立ちます。
そのときの様子はこちらから読めます。
筋子さがしの旅人 / Galileo Galilei
筋子を探しに行きました。
第1戦 錦市場
初戦は錦市場です。
なんかモノ売ってそうなところという雑な認識で雑に向かいました。
結論としては、ありませんでした。
いや、たぶんなかったと思うんですけど、ありえん人混みでまともに店も見れませんでした。
ひとつガバだったのは3連休の中日(10/7)に突貫したことでした。
錦市場、市バスの次に観光公害だと思うんですけどどうなんですかね。
実は上洛1年半にして初めての錦市場でした。
人混みの割にはノリノリで謎練り物スティックを購入したり、カラスミに興味を示して作りもしないのに「生のボラコは置いてないですか?」とか聞いてたり(置いてなかったり)しました。
ちなみにカラスミは浜の潮風で作らないと美味しくないらしいです。
そしてそれらの経験を集合させたところ、どうやら錦市場にナマモノは置いてないっぽいことが発覚しました。
やっぱりちくわやかまぼこといった練り物とカラスミやこんぶといった乾物がメインでした。
割と内地なので、昔から保存がきくようなものが流通していて、その名残みたいな感じでしょうか(1ミリもソースがありません)。
情報あったらください。
筋子購入トライ、まずは1敗です。
所詮は錦市場でした。
第2戦 中央卸売市場
オーバーキルしに来ました。
中央卸売市場いくぜ‼️
— K 藤 (@K_fUj1) 2018年10月24日
中央卸売市場、バカほど遠かった上に夜勤(もうやめた)終わってそのまま向かった上にクソ寒かったため、カバムーヴが身に沁みます。それはそうといった感想なのですが、卸売市場では小売してくれません
— K 藤 (@K_fUj1) 2018年10月24日
またもや敗北です。
ハァ……ハァ……敗北者……?
取り消せよ……今のムーヴ……!
やはりタダでは帰れないので朝食を食べて帰ることにしました。
こんなガバムーヴに効くのは新鮮な生魚しかありません。
そうしてインターネットの海から釣り上げた料理屋さんに足を運びます。
朝定食に刺身がついてくるらしいんですが、市場の人間は朝から刺身食べるのか……?
が、入店直前、野生の直感によりあることに気づきます。
財布忘れた。
何十日もの街徘徊
筋子は買えず、何も得ず
終いにゃ終いにゃガバムーヴ
財布という名のガバムーヴ
それらを託つために死ぬ
実に空虚じゃありゃせんか
人生空虚じゃありゃせんか
第3戦 のるなK 藤!!! 戻れ!!!
中央卸売市場戦のあと、惰性で街を徘徊していました。
卸売市場で小売してくれないことなんて、字が読めればわかることでした。
こういう原因がしょーもないガバムーヴが一番心にキます、朝ごはんも食べれなかったし。
ただただ惰性で魚屋を探しました。
ねむい。
とりあえず一乗寺駅から歩いてすぐの「鮮魚 やまもと」という唯一知っている鮮魚店にやってきました。
一乗寺に用事がありすぎて知らんうちにあの辺のお店覚えてるらしいね。
半ばすがるように訪ねたお店でしたが、やはり筋子はありませんでした。
現実は非情。
ですが店に入った手前、何もアクションを起こさないで退店することはできません。
店内も狭く、全店員から完全に捕捉されています。
ましてや鮮魚店ともなると、コンビニにトイレだけ入って出て行くみたいなノリ4でも到底出て行かれません。
自意識、気持ち悪いね。
てなわけでアクションです。
「筋子って、置いてないですよね……」
見たら分かるだろ。
以下コミュニケーション解説です。
第一に何を探しに来たのかを明確にすること、あるいはある目的のため来店したことを明らかにすることで「何も買わずに帰る」ことを正当化しています。
一番恐れているのは「あいつ何も買わずに帰りやがった……」と思われることなので。
第二に、これは完全にダメ元ですが、もしかしたら店頭に並んでないだけでもしかしたら入荷はしてるかもしれない読みです。
そんなことがあるわけない。
回答は
「あ〜ごめんよ筋子は入荷してないね」
当たり前だろ。
しかし少しつついたところ、店主?のおっちゃんが異常に畳み掛け始めます。
「今年(2018秋)はサケが不漁でね、もうかれこれ4年ぐらい前かな、もうそれぐらいから不漁で、今年はサケが不漁で、筋子も取れてないんだよね」
「あ〜……そうなんですね」
「不漁だとやっぱり高いし、サケならそこそこなんだけど、筋子となると、やっぱりサケが不作だから、やっぱ高くなっちゃって、どこも仕入れてないんよ、高くなっちゃうから、まわりのとこもどこも仕入れてないよ」
「やっぱり不漁だと高くなっちゃいますよね〜(要約)、でももう時期も終わっちゃうんで食べれればと思って」
「あー、筋子はね、冬場になるとサケが遡上始めて筋子が硬くなるんですよ、時期的には今ぐらいまでかな、でもやっぱ不漁で高くつくね、4年前からずっと高騰してる、もう4年前からパッタリと、不漁にね、なっちゃったね、ちょっと高くてもよければね、私が明日市場行ってくるから、仕入れのときに、一腹でも何腹でも、仕入れてくることはできるんだけどね、連絡先だけ教えてくれれば」
ん?
怒涛のサケ不漁アピールで聞き逃しかけましたが、この店主、私が敗北した中央卸売市場で筋子を買ってきてくれるらしいです。
てかそんなサケ不漁なの。
というわけで、ついに卸売業者とのパイプを持つことに成功しました。
小売される世界からの脱構築です!(タイトル回収)
電話番号と名前を告げ、魚屋さんにおつかいをお願いします。
「何腹で?」
どうやら筋子の助数詞は「腹」みたいですね。
サケの腹に入っているからでしょうか。
「2腹で」
1つじゃ足りないかもなと思い、多い分にはたくさん食べれるからいいかという短絡的思考で2腹注文しました。
そして翌日──。
🤔
どうして?
正解は、「私が『2腹』だと思っていたのは『1腹』だったから」でした。
これが想定していた筋子(1腹)で
これが実際に現れた筋子(2腹)でした。
魚、左右対称だから腹の中には筋子が2本入ってるんだよね。
お値段¥8,530。
量もさることながら、価格がマジに想定外でした。
買ってきてもらった手前断れないので漢気の購入、¥8,530分の筋子を買う男子大学生は大将の目にどう映ったのでしょうか。
筋子購入編、これにて終幕です。
イクラ精製編 1.1kg
タイトルの通り、1.1kgのイクラを生み出します。
やるだけなんであっさり説明しちゃいます。
もうこの際ということで、筋子の重さを量るためだけに電子はかりを購入しました(は?)。
あれ以来使ってませんが、こちらが最初で最後の稼働記録です。
1082gの筋子とは……?
これでだいたい1100gぐらいのイクラになったので末端価格で¥16,500、倍ぐらいお得ですね!
最終的に食べきれずに末端価格で¥7,500分撒き散らした(註釈: お友達に振舞った)わけですが……
準備したものは以下の通りです。
大さじ8、120ml(半カップ超)なのですが……
どことなくインフレ感が漂っていますが各工程の説明をしていきます。
卵の内部世界
筋子からイクラを精錬していく工程です。
まずは筋子の中身をバラバラにする工程です。
この工程で「生イクラ」(醤油漬けされていないイクラ)となります。
簡単に筋子の構造を説明します。
めちゃくちゃ雑に説明すると、ブドウを袋に包んだ感じです。
ブドウの実がイクラの粒で、ブドウの皮がイクラの周りについてる薄皮で、ブドウの茎が筋子の血管、ブドウを包む袋が筋子全体を包む膜みたいな認識をしてもらえるとよいです。
ブドウの実だけを取り出すときに
- 袋から取り出す
- 房から粒を外す
- 粒の皮をむく
みたいな流れで精製していきます。
もうお分りの方もいらっしゃるかもしれませんが、割と果てしない作業5です。
そしてそれ以上に部屋と手に染み付く魚の死臭が想像を絶する強度で襲いかかりました。
イクラ作りに挑戦される際はくれぐれもご注意ください。
さて実際問題どうやってイクラを精製するんだという話ですが、色々方法があった中でひとつ気になった金網を使ってこき下ろす手法をやってみました。
どうやるのかというと、
まずは筋子の膜を破り、適度にほぐしてから
こうです。
イマイチよくわからないかもしれませんが、イクラ部分を網目に擦り付けることで血管からブチブチ外していきます。
かしこいみなさんは「そんなことしたらイクラが潰れちゃうだろ!動物さんが可哀想だ!動物さんはおかずじゃない!」などとお思いかもしれませんが、なんとこのイクラ、潰れません。
実は生のイクラってかなり頑丈みたいです。
ちなみに代わりの手段ですが覚えてる限りで
- 70℃の塩水に筋子を入れてかき混ぜる
- テニスラケットのガットでこき下ろす
- 泡立て器でこする
などがあります。
イクラの頑丈さに胡座をかいた強引なやり方が多くないか?
塩水のやつは薄皮取るときにちょっとやったのであとで紹介します。
え……これで半分…………?
ボウルの容量が怪しかったのでここで記念撮影をしておきました。
これいる?(いらない)
結果としてボウルにギリギリ入る容量でした、よかったね。
薄皮外しのパラドクス
続いてイクラのつぶつぶから薄皮やちょっと残ってしまった筋を外していこうと思います。
実はさっきの工程で半分ぐらいは取れてるのですが、やはりきちんと取りたいので。
今回は40℃ぐらいの塩水で洗う方法をやってみました。
原理としては、熱で薄皮が縮んで取れるというようなやつです(ふわふわ解釈)。
トマトとかブドウとかと同じようなアレ(どれ?)ですかね?
なぜ塩水なのかというと、真水でやると浸透圧でイクラがボコボコに破壊されるらしいです。
あれだけ頑丈だったイクラが……
それと「40℃ってイクラに熱通っちゃわない?」というご意見にもお答えしときます。
実は熱が通ります。
が、しばらくすると元に戻ります。
これかなりびっくりしました。
こちらが実際にやってみた様子です。
これ見てもらえると薄皮が浮いてる様子とかイクラが白くなってる様子がわかると思います。
しばらくしたら元通りになりました。
やっぱり生イクラは頑丈ですね。
少しわかりにくいですが、唯一の問題点はザルのサイズがギリギリだったことでした。
数十粒ガバった。
完成
さきほどの調味料を煮詰めて冷まして漬け汁(500cc弱)を作ればあとは一晩イクラを漬けて完成です!
いや〜長かったですね(筋子を手に入れるまでが)。
実はそこからまた約1ヶ月にわたる消費マラソンが続くのですが、記録も特にないのでこれにて終了です。
冷凍することで割と日持ちさせられました。
通常の冷蔵と通常の胃袋での日持ちは3, 4日だと思います(読者向け鯖読み賞味期限)(僕は1週間ぐらい冷蔵→2週間冷凍→解凍&大量消費しました、そんなに味は変わってない)。
こうしてイクラ作りを終えた僕たちは、漬けてる間に晩御飯(26:30)をとることにしました。
来たるイクラパーティーに胸を踊らせ──あるいはそれが無間の苦しみとも知らずに──。
魚卵食べちゃった(照)